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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)88号 判決

審決を取り消すべき事由の有無について検討する。

(本件発明の特徴)

成立に争いのない甲第二号証(本件特許公報)によれば、本件発明は、「得られる表面活性剤が改良された着色性を示すような方法によつてn―アルカリルの水溶性スルホン酸塩を製造する方法」(本件特許公報第一欄二一行ないし二三行目)であり、「特に本発明は、n―アルカリルを三酸化いおうによるスルホン化によつてスルホン酸誘導体に転化する前に、上記n―アルカリルから着色前駆物質を除去するのに適した、特異な精製技術に関する。」(同第一欄二四行ないし二七行目)ものであつて、具体的にみると、C10~C15のノルマルパラフインを原料としてまずこれを塩素化し、得られた塩素化パラフインによつてベンゼンをアルキル化し、さらにスルホン化してアルカリルスルホン酸塩を製造するに際して、三酸化いおうを使用してスルホン化することによつて、芒硝(硫酸ナトリウム)含有量が極めて少く、かつ淡色の微生物分解性のある洗剤原料として品質のすぐれたアルカリルスルホン酸塩を得ることを目的とし、その製造工程として(1)塩化アルミニウムの存在下で、部分的に塩素化したC10~C15のノルマルパラフインまたはそれらの混合物により過剰のベンゼンをアルキル化することによつて得られたアルキル化反応混合物を、まず蒸留して沸点二七〇℃~三七〇℃のアルキル化物留分を取得する工程(以下、分別蒸留工程ともいう。)、(2)前記アルキル化物留分と、アルキル化物留分の重量に基づいて一~二五%量の約八五~一〇〇%硫酸とを約一五℃~七五℃の温度で密接させる工程(以下、硫酸洗浄工程ともいう。)、(3)工程(2)の処理したアルキル化物の相を回収し、ついで三酸化いおうでスルホン化し(以下、スルホン化工程ともいう。)、続いて得られたスルホン酸生成物を水溶性塩基で中和する工程の各工程を順次行うこととした点を特徴とするものであると理解される(特許請求の範囲の記載参照。)。

一方、成立に争いのない甲第七号証(フランス特許第一、三三五、六九五号明細書―引用例一)によれば、引用例一記載の技術も、原告の出願にかかる発明であつて、「改良された洗剤用のアルキレート類およびこれらより誘導されるスルホン酸塩類であつて、生物学的に完全に分解可能な製品に関するものである。なお詳しく述べれば、本発明はスルホン化されたアルカリールのアルカリ金属塩、特にそのアルキル置換基が炭素原子数八~一八の実際上直鎖パラフイン類の特定の混合物から誘導されるアルキルベンゼン類の塩を含有する洗剤組成物に関するものである。」(甲第七号証第一頁左欄一行ないし一一行目、訳文第二丁表一行ないし七行目参照。)。そして、その製造方法として、まずパラフイン含有量の比較的高い石油留分から尿素付加法もしくは分子篩法によつて、直鎖状パラフイン混合物を分離収得し、次にこのパラフイン混合物をn―パラフインのモノクロール化物が主として得られるように部分塩素化し、この部分的に塩素化されたC8~C18のパラフイン混合物によつて塩化アルミニウム触媒の存在下でベンゼンをアルキル化するものである。そして、アルキル化反応物を硫酸処理したのちアルカリ処理したうえ蒸留して洗剤用アルキレートを収得し、ついでスルホン化して、さらにそれから所望の塩を形成してこれを活性洗剤に転化するのであるが、このアルキレートの精製、スルホン化及び塩形成を含む最後の諸段階は在来技術において周知なものを用いているものである。(甲第七号証第三頁右欄五行ないし三七行目、訳文第七丁表三行ないし第七丁裏七行目参照。)。

右にみた本件発明と引用例一記載の技術との対比から明らかなごとく、n―パラフインを部分的に塩素化し、これを用いてベンゼンをアルキル化する方法は、両者に共通しており、本件発明における「特許請求の範囲」にいう「アルキル化反応混合物」(アルキル化反応によつて生成したアルキレート)は、引用例一に記載があるものと認められ、本発明は、引用例一記載の技術の改良を意図したものと理解される。このことは、「発明の詳細な説明」欄における次の記載からも窺えるところである。「しかしながら、意外にも、粗アルキル化反応混合物を分留して主としてモノアルキルベンゼンからなる炭化水素混合物を得、続いてこの留分を濃硫酸で処理すれば、その中に含有される前記した多環式化合物(本判決注―三酸化いおうを用いるスルホン化によつて得られるスルホン酸誘導体の色を悪くする原因であると原告が認識している不純物)が、実質的に全部除去されることを紫外線スペクトル分析によつて確認し、またさらにこの三酸化いおうによるスルホン化によつて、優秀な色をもつそのスルホネートを製造することができることを確認した。従つて本発明は、過剰のベンゼンを塩化アルミニウムの存在下で部分的に塩素化したC10~C15の線状パラフインでアルキル化し、その留分と濃硫酸とを、アルキル化物の三酸化いおうによるスルホン化によつて色の悪いスルホン酸誘導体を生成させる、上記したような着色前駆物質を除去するのに十分なる時間密接させることによつて製造した洗浄剤品位のアルキル化物留分の回収を意図するものである。」(甲第二号証第四欄一二行ないし二九行目)。

そして、右引用にかかる個所の記載内容から明らかなごとく、本件発明は、引用例一の技術を改良するものとして前記アルキル化反応によつて生成された洗浄剤原料用アルキレートを前提としてさらに、特許請求の範囲に記載された(1)分別蒸留工程(2)硫酸洗浄工程(3)三酸化いおうによるスルホン化工程及び中和の各工程を順次行う製造方法を採択したもので、そこに本件発明の特徴を見い出すことができる。

(構成の困難性について)

1 アルキレート精製技術の転用もしくは変更の困難性について

まず、成立に争いのない甲第八号証(米国特許第二、二四七、三六五号明細書―引用例二)によれば、引用例二記載の技術は、側鎖芳香族スルホン酸塩の製造法であつて、炭化水素混合物を塩素化し、塩素化された炭化水素を芳香族化合物と縮合させて核側鎖を有する芳香族化合物を含有する混合物を形成し、この混合側鎖芳香族化合物をスルホン化し、これによつて生成した混合スルホン酸をそれらの塩の形態で回収する方法であり、引用例二の実施例一には、アルキレートの精製処理に関し、審決認定(二丁表下から四行ないし同丁裏三行目)のごとく塩素化したケロセン炭化水素でベンゼンをアルキル化して得たアルキルベンゼンであるケリルベンゼンに対して、はじめに分別蒸留し、これに引続いて硫酸洗浄処理をするという順序の方法が記載されている(甲第八号証第四頁左欄六六行ないし右欄三五行目、訳文第一一丁表一行ないし同丁裏一一行目)ことが認められる。

さらに、成立に争いのない甲第九号証(米国特許第二、七二三、九九〇号明細書―引用例三)によれば、引用例三の技術は、スルホン化剤としての気状三酸化いおうによるアルキル置換単核芳香族化合物の直接スルホン化法であり、引用例三の発明の目的は、炭素数八ないし二〇個のアルキル基を有するアルキルベンゼンを三酸化いおうでスルホン化することによつて、「商業的な“塩なし”アルキルアリールスルホン酸ナトリウム製品を直接もたらす」(甲第九号証第三欄三六行ないし四一行目、訳文第六丁表末から二行ないし同丁裏二行目) ことであり、そこで商業的な“塩なし”製品とみられるものも、普通、約一〇%ないし約二五%の硫酸ナトリウム(芒硝)を含有している(甲第九号証第二欄一五行ないし一七行目、訳文第三丁裏末尾の三行)ものであることが認められる。

したがつて、本件発明の特徴として指摘した前記(1)分別蒸留工程に引続いて(2)硫酸洗浄する方法及びスルホン化剤として三酸化いおうを用いる技術が個別的事項としては公知の手段であつたことは明らかである。

しかしながら、引用例一の記載においては、後記のとおり三酸化いおうによるスルホン化が常法の一つとされているところからみても、本件発明が見出したような問題点、すなわち、三酸化いおうでスルホン化した場合には、そのスルホン酸誘導体は色の悪いものとなることが公知であつたとは考えられず、まして、当業者が、本件発明において除去すべく意図したアルキル置換ナフタリンやアルキルアントラセンなどの多環式化合物たる不純物が三酸化いおうを用いるスルホン化によつて得られるスルホン酸誘導体の色を悪くする原因であることを認識していたとは考えられない。さらに、次に詳細に検討するごとく引用例一の技術と引用例二の技術との間には、精製処理を施すべきアルキレート成分及び除去すべき不純物が著しく相違する点や引用例二の記載全体を通してみても、蒸留したのちに硫酸洗浄を施すように処理順序を変更することの有用性が積極的に開示されていないことなどを勘案すると、引用例一に示された製造方法のうちアルキレートの精製以下の工程として引用例二記載の方法のうちの精製工程のみを取り出して転用することの技術的関連性もしくは必然はきわめて乏しいとみるのが相当である。(一) 精製処理を施すべきアルキレートの相違

前叙のごとく引用例一及び本件発明のアルキレートは、実質的にn―パラフインなる原料炭化水素を部分的に塩素化し、これを用いてベンゼンをアルキル化して生成されたところのアルキレートである。

これに対し引用例二の技術における原料炭化水素は、かなり広い沸点範囲にわたる石油留出物であつて、到底実質的なn―パラフイン成分からなるものとはいえないから、引用例一における原料炭化水素とはかなり相違するものである(甲第八号証第三頁右欄四一行ないし六七行目、訳文第九丁表二行ないし同丁裏一行目参照)。また、引用例二においても、前叙のごとく原料炭化水素を塩素化するのであるが、引用例二にあつては、その特許請求の範囲の記載から明らかなごとく「炭化水素混合物を一〇〇%より多く、二〇〇%を超えない塩素化率に相当する程度に塩素化することを含むことを特徴とする」(甲第八号証第九頁左欄五〇行ないし五九行目、訳文第二六丁表末から五行ないし同丁裏一行目)のであり、引用例一や本件発明における部分的な塩素化物と相違することは明らかである。

したがつて、精製処理を施すべきアルキレートは、引用例一や本件発明と、引用例二の技術とではその成分自体に著しい差異があるものと解するのが合理的であり、しかもこの差異が、除去すべき不純物の相違やスルホン化剤の選択などその後の精製処理などの目的もしくは方法とも関連しているものと理解されるから、被告のように単に量的な相違にすぎないとみるべきものではない。

(二) 除去することを意図した不純物の相違

本件発明においては、前叙のごとく生成したスルホン酸誘導体の色を悪くする原因が、アルキル置換ナフタリン及びアルキルアントラセンにあることを見出し、これら特定の多環式化合物を不純物として除去することを意図していることは明らかである(本件特許公報第二頁三欄三三行ないし四欄二九行目参照。)。

不純物除去の思想に関し、被告は、引用例二においても「ポリフエニル化灯油」なる多環式化合物の除去が指摘されている(甲第八号証第四頁右欄一六行ないし一八行目、訳文第一一丁表末行から同丁裏一行目)ことから本件発明におけると同じように多環式化合物が不純物として意識されていると主張する。

しかしながら、本件発明における不純物は、前叙のごとくアルキル置換ナフタリン及びアルキルアントラセンなどの縮合型の多環式化合物であるのに対し、引用例二に記載された「ポリフエニル化灯油」は、炭化水素鎖中にフエニル基を複数個含んだ別種の化合物であり、しかも被告が右指摘する個所の記載によれば、蒸留によつて分離除去できるものとされている(ポリフエニル化灯油に相当するジフエニルアルカンが、蒸留によつて分離回収できることは、引用例一―甲第七号証第六頁右欄三四行ないし三五行目、訳文第一四丁裏五行ないし六行目にも明記されている。)。しかるに、本件発明が除去しようと意図したアルキルアントラセンのごとき不純物は分留のみによつては除去できないものである。すなわち、成立に争いのない甲第五号証の二(昭和五一年八月二七日付審判請求理由補充書)によれば、アルキルベンゼン粗製品を単に分留精製したものにはアルキルアントラセンその他が著量に含有されていること(第一二丁一一行ないし一三行目、添付図表の吸光度曲線Ⅰ参照。)が認められ、さらに甲第五号証の二における吸光度曲線Ⅱ及び甲第二号証(本件特許公報)の記載(第一頁二欄一〇行ないし一五行目、第二頁四欄四行ないし一一行目)からみても、硫酸洗浄後に分留を行う方法(引用例一記載の精製方法)によつても、この種多環式化合物たる不純物を完全に除去できていないことが窺われる。

なお、本件発明が、不純物として除去しようとしている前記アルキル置換ナフタリンは、引用例二の技術においてはケリルナフタリンに相当するが、そこでは、目的とするスルホン酸塩合成の原料としてさえ扱われている(甲第八号証第七頁右欄二七行目、訳文第二一丁表末行)。

右のことからみても、本件発明が除去しようと意図した不純物と引用例二の技術において不純物とされるものとでは著しい差異があるものとみるべきである。

(三) 硫酸洗浄工程と分別蒸留工程との組み合わせの相違

引用例一の技術においては、前叙のごとくアルキル化反応物を、まず硫酸で処理し、その後アルカリ溶液で洗浄し、これを分別蒸留する(甲第七号証第六頁右欄二五行ないし三一行目、訳文第一四丁表末行ないし同丁裏四行目参照。)方法が採用されているのであるが、引用例二(甲第八号証)の記載には、精製工程に関する一貫した方法についての一般的説明はない。わずかに前叙したごとく実施例一においては、ケリルベンゼンを分別蒸留したのちに、酸洗浄処理が行われているものの、アルカリ洗浄については何ら触れるところがない。

この点、引用例二の実施例二及び実施例五の精製方法も実施例一と同様であるし(甲第八号証第五頁左欄六九行ないし七二行目、訳文一五丁表一ないし二行目、第六頁右欄五〇行ないし六六行目、訳文第一八の二丁表末から三行ないし同丁裏五行目参照。)、実施例六においては、蒸留のみで硫酸洗浄さえ行つていない(甲第八号証第七頁左欄四一行ないし七〇行目、訳文一九丁裏六行ないし二〇丁表七行目参照。)。

このように、引用例二においては、アルカリ処理工程はなく、しかも、粗アルキル化物の精製方法として一貫して蒸留(分留)精製工程に引続いて硫酸洗浄工程を通す方法が記載されているわけではない。

まして、引用例二の記載全体を通してみても、精製工程をこのような順序に変更することの有効性を示唆しているところも見い出させない。

したがつて、引用例一記載の精製工程のかわりに、引用例二の実施例一に示された蒸留(分留)ののちに酸洗浄工程を施す方法を転用しようと考える技術的関連性は乏しいものといわざるをえない。

また、本件の「発明の詳細な説明」欄には「しかしながら、すべてこん跡量の酸性成分を除去するために、このアルキル化物をさらに処理することが望ましい。このような清浄工程はこの処理したアルキル化物を希塩基性水溶液で洗浄し、続いて水洗し、ついで乾燥することによつて達成することができる。上記の処理したアルキル化物中に存在する少量の酸を除去するための別法は、アルキル化物を適当な吸収剤、たとえば塩基性クレー、活性炭およびその類似物と接触させることからなる。」(本件特許公報第五欄一六行ないし二五行目)との記載のように、アルカリ洗浄を行う場合のことを考えると、精製工程としては、引用例二の技術より引用例一の精製工程に近いものとも理解できるが、本件発明においては、後に詳細に検討するごとく、三酸化いおうを用いてのスルホン化によつても最終製品として淡色の製品が得られるのに対し、引用例一記載の精製方法(硫酸処理したのちアルカリ処理して蒸留する。)によつては、淡色のものが得られないこと(本件特許公報第三欄一六行ないし第四欄二九行目)が窺われ、さらに前掲甲第五号証の二(審判請求理由補充書)における吸光度曲線ⅡとⅢを比較してみても、分留後硫酸洗浄を行つたもの(本件発明)の方が、硫酸洗浄後分留を行つたもの(引用例一)よりアルキルアントラセンのごとき不純物の含有量が少いことが認められ、これを覆えすに足る証拠はない。

このように、本件発明の精製工程が、引用例一記載の精製工程と実質的な点で著しい差異を招来している以上、これを引用例一記載の精製工程の順序を単に変更したに過ぎないものと判断することはできない。

(四) スルホン化剤の相違

引用例一の技術においては、スルホン化についても前叙のごとく在来技術として周知なものを用いるとされ、スルホン化剤としては「発烟硫酸、三酸化いおう、三酸化いおうと二酸化いおうの混合物またはクロルスルホン酸」(甲第七号証第六頁右欄三六行ないし四一行目、訳文第一四丁裏七行ないし一〇行目)が列挙され、具体例としては、発烟硫酸によるスルホン化が示されている。このことからも、引用例一においては、少くとも三酸化いおうによるスルホン化を発烟硫酸によるスルホン化と同等に認識していることが窺われる。

これに対し、引用例二には、三酸化いおうを用いてのスルホン化について何ら示唆するところがない。

したがつて、アルキル化反応物を精製処理したのちに行うスルホン化についても引用例一と引用例二とは用いるスルホン化剤が相違していることが明らかである。

2 三酸化いおうによるスルホン化の実際上の困難性について

前叙のとおり引用例三の記載からみると三酸化いおうを用いてスルホン化する方法が公知であつたとはいえ、前掲甲第二号証(本件特許公報)によれば、本件発明と同種の引用例一記載のアルキレートを「三酸化いおうでスルホン化してそのスルホン酸誘導体に転化した場合には、そのスルホン酸は、その水溶性塩も同じく意外にも非常に欠陥のある色を示すことを認めた。」(第三欄二三行ないし二八行目)旨の記載があり、また引用例三の記載をみても、三酸化いおうを用いてスルホン化することによつて“塩なし”製品として商業的に通用する程度の比較的芒硝含有量(約一〇~一五%)の少い製品を得ることができる反面、三酸化いおうによるスルホン化においては、強い反応性によつてアルキル化物の損失を助長するほか、「炭化」によつて製品の色を悪くする欠陥があり、かつ三酸化いおうをスルホン化剤として用いるとスルホン化の進行に伴つて粘性が増し、攪拌もむずかしくなり全体にわたつてのスルホン化ができなくなるなどの実際上の困難性があつたことが認められる。しかも成立に争いのない甲第五号証の二(審判請求理由補充書)及び引用例三の記載内容に徴すると、発烟硫酸を用いてスルホン化するならば、淡色の製品を得ることができるものの芒硝含有量が多くなるという問題が生起し、また三酸化いおうを用いてスルホン化すれば、芒硝の含有量を減少させることができるものの、前叙の炭化や粘性の増加の問題があつて最終製品としても淡色製品が得られないであろうことは、当業者に認識されえた技術的事項であつたものと考えられる。

したがつて、本件発明は、右のごとき技術上の認識を前提として(甲第二号証第三欄一六行ないし二八行目参照)さらに、三酸化いおうを用いてのスルホン化によつて得られた製品の色を悪くする原因がアルキル化物中の特定の多環式不純物にあることをつきとめたうえ、三酸化いおうを用いてスルホン化すること(本件発明が、硫酸の共存を排除しようとしていることは、右引用の明細書の記載からも窺える。)によつて芒硝含有量が極めて少く、かつ淡色の微生物分解性のある洗浄剤用原料を得ようとしたものであると解され、しかも引用例三においては、製品の色を悪くする原因として専ら「炭化」が問題視されていて、そこでは、本件発明における特定の多環式化合物が不純物として認識されていないことからしても、本件発明において芒硝含有量が少く、しかも淡色の製品を得られたとすれば、それは、予想外の効果と評価できるものである。

(効果の顕著性)

1 芒硝含有量を減少させた点

商業的に“塩なし”製品といわれるものにも普通約一〇%ないし約一五%の硫酸ナトリウムを含有していることは前叙のとおりであり、その程度の芒硝が含まれていても商業的にはやむをえないものと考えられていたことが窺われる。

しかるに、前掲甲第五号証の二(審判請求理由補充書)には、「本件発明の方法による製品では硫酸塩の含有量は、通常一・〇%以下であり格段に少いこと」が記載されており、右記載内容を排斥しうるだけの証拠もないところから、本件発明は、芒硝含有量を極めて少くしえたものと判断され、その効果は極めて顕著なものと解するのが相当である。

2 不純物の除去によつて淡色製品が得られた点

甲第二号証(本件特許公報)第三頁ないし第四頁に示されたスルホン酸塩の相対的色密度(-PCD)比較によれば、本件発明によつて淡色製品が得られたことが認められ、これを覆えすに足る証拠はない。

すでに触れたごとく引用例三の技術においても、三酸化いおうによるスルホン化によつては、三酸化いおうの強い反応性によつて炭化し、この炭化によつて製品の色を悪くすると記載されていることから、当業者としてもこの方法によるスルホン化によつては、淡色製品を得ることがむずかしいことは容易に予想しうることであり、しかも引用例三においては、専ら色を悪くする要因としては「炭化」の問題が指摘され、本件発明が除去することを意図した特定の多環式化合物については何ら触れるところがない。

右のことからしても、本件発明が、前叙のごとく三酸化いおうによるスルホン化と特定の多環式化合物(不純物)との相関関係をつきとめ、最終製品として淡色製品を得ることに成功したことは全く予想外の顕著な効果を奏したものと解すべきである。

(結論)

これまで、構成の困難性及び効果の顕著性について詳細に検討してきたところから明らかなごとく審決が本件発明の構成要件を個々の工程に分解したうえ、各引用例の技術もしくは技術思想の関連性もしくは転用の必然性を検討することなく、単に同一の技術分野に属するものであることを理由として、引用例一記載のアルキレートに対して引用例二及び引用例三記載のアルキレート精製工程とスルホン化手段を適用しただけであると判断したことは誤りというべきである。

したがつて、審決は、違法なものとして取消しを免れない。

〔編註〕 本件における発明の要旨および審決理由の要旨は左のとおりである。

本件発明の要旨

「過剰のベンゼンを塩化アルミニウムの存在下で、部分的に塩素化したC10~C15のノルマルパラフインまたはそれらの混合物でアルキル化することによつて得られる、アルカリルから淡色のスルホン酸塩を製造する方法において、(1)上記アルキル化反応混合物を蒸留して沸点約二七〇℃-三七〇℃のアルキル化物留分を取得する工程、(2)上記アルキル化物留分と、アルキル化物留分の重量に基づいて一―二五%量の約八五―一〇〇%硫酸とを約一五℃―七五℃の温度で密接させる工程、(3)工程(2)処理したアルキル化物の相を回収し、ついで三酸化いおうでスルホン化し、続いて得られたスルホン酸生成物を水溶性塩基で中和する工程、からなる各工程を行なうことを特徴とする改良方法。

本件審決の理由の要旨

(一) 本件発明の要旨は、前項のとおりと認める。

(二) これに対して、原審の拒絶査定の理由となつた特許異議の決定の理由の概要は、ベンゼンを塩化アルミニウムの存在下、直鎖アルカンの部分塩素化物と反応させ、洗浄剤原料用アルキレートをうることはフランス特許第一三三五六九五号明細書(昭和三九年三月二日特許庁資料館受入、以下、引用例一という。)に記載され、そして本件方法で採用する原料アルキレートの精製及びそのスルホン化方法はいずれも米国特許第二二四七三六五号明細書(昭和二三年五月三一日特許庁資料館受入、以下、引用例二という。)及び米国特許第二七二三九九〇号明細書(昭和三一年五月九日特許庁資料館受入、以下、引用例三という。)に記載され公知の手段であるから、本件発明は引用例一によつて公知の洗浄剤原料に引用例二及び引用例三によつて公知の精製及びスルホン化手段を適用しただけのもので、これら引用例に記載の発明から容易に発明しえたものであつて、特許法第二九条第二項の規定によつて特許を受けることができないというものである。

そこで、これら引用例の記載内容を検討するに、まず、引用例二には塩素化炭化水素とベンゼンとから出発してアルキルベンゼンスルホン酸塩を製造する方法の記載があり、その場合に塩素化ケロセン炭化水素でベンゼンをアルキル化して得たアルキルベンゼンであるケリルベンゼンに対して蒸留及び引続く硫酸洗浄処理という精製処理を施すものであること、また引用例三には炭素数八―二〇個のアルキル基を有するアルキルベンゼンを三酸化いおうを用いてアルキルベンゼンスルホネートを製造する方法の記載があり、この場合三酸化いおうをスルホン化剤として用いることによつて硫酸ソーダ等の硫酸塩の副生が少ないことなどの効果があることが記載されている。そして、引用例一には直鎖パラフインを部分塩素化ののち、塩化アルミニウムなどのアルキル化触媒の存在下に芳香族化合物のアルキル化剤として用いてアルキレートを製造し、これを三酸化いおうによるスルホン化を含むスルホン化の常法に従つてアルキルアリールスルホネートとする方法の記載があることが認められる。

しかして、これら引用例一―三に記載の方法はアルキルアリールスルホン酸塩の製造という同一の技術分野に属するものであつて、これら引用例に記載の技術思想の一つを他に転用したり、組合せたりするところに格別の工夫、考案を要するものではない。

それ故に、本件発明は、引用例一のアルキレートに対して引用例二及び引用例三によつて公知であるアルキレートの精製とスルホン化手段を適用しただけのものであると認めるの他はなく、引用例一―三に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

したがつて、本件発明は特許法第二九条第二項の規定により特許を受けることができないとの原査定の判断は妥当である。

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